第5回課題公演/劇団あおきりみかん「つぐない」@G/pit(2017.7.7-7.17)
by 稲元 良和(I元)
償わなければならない女が...すがる様に訪れた教会で出会った男。直感に導かれ始まった対話が
本作の主軸。彼女は...自らを「罪悪感のない女」と悪びれずに称し、生い立ちを語り、ロジカルに罪悪感と償いの必然性を探る...陽気で求道的なサイコパスを思わせた。むしろ無理解に「償い」を迫る周囲に嫌悪感を覚えたこともあり、この序盤の展開で「おおおっ、どこへ向かって行くんだ、この話は...」ってワクワクが止まらなかったのを覚えています。(周りの感想を聞く限り、ここがツボにハマった人は少ない様ですが(笑)。
ところがどっこい本作は、私がそこまでで感じた期待感とは異なる...意外な方向に舵を切った。
「サイコミステリー」だと思っています...それもかなり洗練された。
仕組まれる数多のミスリード...その最たるものが「彼女自身の全ての記憶と発言」という大胆さ。事実に反して、彼女の発言・行動の全てに掛かっていた自己否定のバイアス。その果てに、逆に周囲に「罪悪感がない」と映る構図が巧妙。
実際、元彼・貴大は「美和の罪悪感」を最初から主張していたのにも関わらず、私にはそれが思い
込みにしか見えない...そのくらいギャップがあったのに、登場人物と起こる事象のピースを必然性を
伴ってキッチリ嵌め込んでいくミステリーとしての心地良さがありました。
「やられた~」という意外性と納得感。
そして、本作が只のミステリーで終わらなかったところが、「罪の意識」、自滅に誘う「過剰な献身」等の人間の根源的な命題を使ったところ。
ミステリーが、とても深淵な人間ドラマになっていった。
最終的に、同じく深い罪悪感に苛まれていた男の物語を糾合して、話は「ミステリーの謎解き」から「真に罪を償う方法とは...」という命題に昇華していく。
安易な免罪符たる「償いへの誘惑」に抗う葛藤を...みっともない人間臭さで体現してみせた男と神
父の対峙... あそこの男・松井真人さんの芝居がホント好きです。総じて、巨大な罪悪感が「本音の
ぶつけ合い」を妨げた悪循環の悲劇。その末に「贖罪の献身」ではなく、「徹底的な対話」こそが真の償いであると感じさせました。
...そこだけ言うと、ごくありきたりのことなんだけど、結局、人の関係はそこに尽きるのね。普通のことこそが難しい。
至った結論ではなく、そこに至るまでの2人の苦悩と過程こそ、本作の核心なんでしょう。
凄まじい苦難を伴うことは想像に難くないですが、彼女の...これから始まる「真の償い」を予感させるエンディングが胸を熱くさせました。
2017/8/7 twitter 版 (1027 字)
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