推カケレビュー講座(2020.3.15①事前レクチャー 4.22②講評会)
講師:綾門優季氏(「キュイ」主宰・劇作家・批評家・全国学生演劇祭審査員)
ー<任意課題>ーーーーー
オレンヂスタの10周年記念の冊子が出ることになり、『黒い砂礫』について500字の劇評を寄せる ことになりました。地元の某新聞の劇評は、ある程度読まれていると思われます。その劇評とはな るべく内容がかぶらないように、どちらも読んだひとが楽しめる劇評を、もう一本書いてくださ い。ただし某新聞の読者層と異なり、オレンヂスタの10周年記念の冊子を会場で購入するタイプの 観客の多くは、公演を観ているであろうことに気をつけてください。
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【執筆者・I元さん】(講評会時点) →I元さんの感想
悠子の動機の本質とは〜「黒い砂礫」
遺品の手記を言葉通りに受け取り、「悠子が他人の為に登っていた」とする幕引きには...実は納得していない。作品がそこまで積み上げた悠子の内面には...そんな単純さは無かった。
悠子には「負けん気が強いが下積みは嫌い、興味の赴くまま準備不足で飛び込む性急さ」が窺える。 ある意味、冒険家に必要な本能を過剰に湛えたエゴイストだ。マロニーの有名な登山の動機「そこに山があるから」を、私は「エゴイズム的な征服欲」と解釈しているが、悠子の登山家半生も明らかにそこに本質がある。後年、父の自死や田部の犠牲を転機に...内心に「他人の為」が生まれても、動機が増えただけで、それが一貫した動機には成り得ないと思う。彼女の言動は「揺れ」が激しく、著しく一貫性に欠けていたからだ。
失敗を正当化しようと無理を重ね、取り返しのつかない末路に至る...その愚行こそ人間らしさだ。美 化せずとも、彼女の激しい葛藤はそのままで実に人間的で、ドラマとして魅力的だ。
ただ...彼女の足跡を追った者達の、彼女のヤマを美しく飾って終わらせたい...そこを拠り所としたい ...そんな気持ちになら同意できる。そんな神々しい「死に姿」ではあった。
(508字)
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