推カケレビュー講座(2020.3.15①事前レクチャー 4.22②講評会)
講師:綾門優季氏(「キュイ」主宰・劇作家・批評家・全国学生演劇祭審査員)
ー<必須課題>ーーーーー
オレンヂスタ『黒い砂礫』について、約1000字で劇評を書いてください。地元の某新聞に掲載されるものと仮定し、ほとんどの読者はオレンヂスタを観ていないという想定とします。新聞なので、字数があまりにも少ない、または字数があまりにも多いものは載らないことに注意してください。
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【執筆者・まつやまみどりさん】(講評会後、一部修正) →まつやまみどりさんの感想 結成10周年を迎えた劇団オレンヂスタ最新作、第9回公演「黒い砂礫」が七ツ寺共同スタジオで公演された。美人女性登山家が世界最難関の山K2途中で行方不明になる。彼女の夫や大学山岳部同期、登山企画エージェントなど彼女にまつわる人々は、彼女の登山挑戦の真相に迫るべく彼らもまたK2へ挑み、凍てついた山で見つけたものとは。
本作はオレンヂスタ所属、演出も手がけるニノ・キノコスターの脚本である。近年ニノは「アリスインプロジェクト(2015)」や「劇作家とつくる短編人形劇(2017)」など劇団外で演出経験を積んできた。初期はダンスやアクションなどパンキッシュだったが「白黒つかない(2014)」以降、身体を密接させ動くコンタクトインプロやオブジェを用い独自の方法を模索している。
主演は、女性登山家・前地悠子に宮田頌子。他に、前地の夫・弥太郎に今津知也、山岳女性カメラマン五十嵐亜美に伊藤文乃ら劇団員、客演で松竹亭ごみ箱、中居晃一、大脇ぱんだ等が脇を固めた。
物語は、実在した故人の男性登山家がモチーフだ。ニノは女性に設定した理由は「男性社会である登山について書こうと思った際、必然的に女性について書くことになりました~略~登山家を女性に置き換えることで「ジェンダー」について考えるキッカケになると思っています{*1} 」と述べている。しかし、前地悠子が妊娠を隠してまで無謀な登山に挑戦する動機は一つのエピソードにとどまりテーマとしてのジェンダー問題にどこまで迫れていたか疑問が残った。
舞台美術は岡田保 (かすがい創造庫)が手がけ、舞台上に段差の違う板を積み重ね高低差を出し、白い紐を張り巡らし、観客の想像力で補える抽象的でシンプルな雪山を表現。坂野嘉彦によるオーケストラ楽曲はエベレストの壮大さと過酷さを見事に表現していた。しかしシーンとのバランスをみたとき、過剰気味な印象の演出になってしまったのではないか。
公演は3月中旬、新型コロナウイルス感染が徐々に広がり既に幾つか公演が中止又は延期になった時期で、受付では観客全員の手洗いと消毒が行われ、開演直前までの換気、客席数を限定し空間に余裕を持たせるなど感染予防に万全の体制だった。千秋楽まで無事に終えることはオレンヂスタにとって過酷な登山のようなものであったに違いない。その難関を乗り越えたという事実は、やむなく公演を断念した他の劇団や多くの演劇人に勇気と希望を与えたことだろう。 {*1}当日配布のパンプレットより
(998字)
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