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執筆者の写真推カケ☆批評塾

推カケレビュー講座「オレンヂスタ/黒い砂礫」レビュー必須課題⑤

推カケレビュー講座(2020.3.15①事前レクチャー 4.22②講評会) 講師:綾門優季氏(「キュイ」主宰・劇作家・批評家・全国学生演劇祭審査員)

<必須課題>ーーーーー オレンヂスタ『黒い砂礫』について、約1000字で劇評を書いてください。地元の某新聞に掲載されるものと仮定し、ほとんどの読者はオレンヂスタを観ていないという想定とします。新聞なので、字数があまりにも少ない、または字数があまりにも多いものは載らないことに注意してください。

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【執筆者・Fさん】


 2020年3月19日(木)、オレンヂスタ公演『黒い砂礫』を観劇した。

 この舞台のカギを握るのは女性登山家・前地悠子。女性初の冬季K2単独無酸素登頂への挑戦中に行方不明となった彼女とそれを取り巻く人々の物語だ。K2とはカラコルム山脈にある山の事で、標高は8,611メートル。エベレストに次ぐ世界第二位の高さである。

 この女性登山家のモチーフは、実在する男声登山家だそうだ。埋められない筋力・体力の差、世間から向けられる偏見と好奇の目、キャリアか妊娠かを選ばなければならない現実。あえて女性に変換し登山と並べることで『ジェンダー』に関する様々な問題が浮かび上がる事となった。

 前地悠子の夫・弥太郎の所属する信州大学の研究室に、彼女と共にK2に登っていた屑木が入ってくる。そこに女性カメラマン・五十嵐が前地悠子の回顧展の許可を弥太郎から得る為に訪ねてくる。そんな中、楠木は弥太郎に前地悠子への唯一の手掛かりとなる手記を手渡す。軽量化の為か後半部分が破られた手記には、彼女が妊娠していることを示す写真が挟まれていた。彼女は何故山に登り続けたのか。真実を探すため、三人はK2へ向かう事となる。

 舞台は前地悠子が手記を書き綴りながら登る過酷な山中の回想と、行方不明になったあとの時間軸を交互に展開していく。舞台美術は複数の段差でできており、役者たちの立ち回りによって賑やかな居酒屋の一室となったり、険しい山の足場となったりする。安全な地上で繰り広げられる会話から、激しい吹雪が吹き荒れる場面に切り替わる温度差を表現するのに相応しい構造であった。

 前地悠子の妹に取材をするシーンでは、彼女の実家の家業である伝統工芸の飯田水引が登場する。この時舞台奥に張られた一本の水引が、後に弥太郎たちのK2登山シーンでは舞台上に張り巡らされ、不安定な足場を表していく。そして最後の回想の中では、前地悠子の肉体を縛り付ける雪山そのものとなり、彼女の精神に絡みつくしがらみと化していく。疲弊し朦朧とする意識の中で、彼女はくり返し様々な幻覚を見る。埋められない性差、向けられる偏見と好奇の目、たくさんのしがらみに捕らわれながらもそれに抗おうと藻掻く強い意志が胸に突き刺さった。

 「なぜ山に登るのか」「自分にとっての”山”とは何か」。劇中でも観客に提示された問いだ。『黒い砂礫』が与えてくれたこの問いの答えを、今もまだ探し続けている。


(917字)

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